高圧CVケーブルや地中配電設備で突発的な絶縁破壊(地絡・短絡事故)が発生した場合、現場代理人や電気保安技術者には、「事故箇所をいかに迅速かつピンポイントで特定するか」、そして「事前の予防保全で事故を未然に防ぐか」という高度な現場対応力が求められます。
地中に埋設されたケーブルや目視できない暗渠配線では、闇雲に掘削することは不可能です。ホイートストンブリッジを利用した「マーレーループ法」、電波の反射波を解析する「パルスレーダ法(TDR)」、水トリー劣化を定量的に捉える「直流漏れ電流法・交流重畳法」、そして熱画像から接触不良をキャッチする「赤外線サーモグラフィ点検」といった技術体系を正しく使い分ける必要があります。
この記事では、高圧ケーブルの障害位置特定から予防保全の劣化診断まで、現場実務で必須となる測定理論・計算公式・判定基準値を体系的に解説します。
1. 高圧ケーブル障害特定・劣化診断の全体対応フロー
高圧ケーブルで事故が発生した際、あるいは年次点検等で劣化状態を診断する際は、現場の運用フェーズ(緊急事故対応か予防保全か)と障害の条件に応じて最適な手法を選択します。
以下の判別マトリクス表に沿って、1次判定(メガー測定等)の結果から適切な測定・診断手順へ進みます。
| 運用フェーズ | 現場の状態・障害条件 | 最適な測定・診断手法 | 適用時の主なポイント |
| 事故発生時(1次切り分け) | 1相地絡 / 健全相あり / 低抵抗地絡 | マーレーループ法 | 健全相1本が必須。短絡ループで地絡点を高精度に距離算定 |
| 断線 / 全相地絡 / 健全相なし | パルスレーダ法(TDR) | 1本のみで測定可能。反射波の極性(上下)で事故種別を判別 | |
| 高抵抗地絡 / 微小スパーク | サージパルス法(衝動電圧法) | 低電圧パルスで反応しない微小地絡に対し、高圧サージでアーク放電させて測定 | |
| 予防保全(定期・活線点検) | 停電時:絶縁体内部の水トリー劣化 | 直流漏れ電流法 | DC高電圧を印加。10分値(5.0$\mu\text{A}$基準)とキック現象で判定 |
| 無停電時:水トリー微少電流検出 | 交流重畳法(活線診断) | 通電のままシールド接地線から直流分電流(100nA基準)を測定 | |
| 通電時:端子・接続部の接触不良 | 赤外線サーモグラフィ点検 | ボルト緩みによる過熱を視覚化。健全相との相間温度差($\Delta T$)で評価 |
メガー(絶縁抵抗計)で事故の「1次切り分け」を行う
事故が起きたら、まずは500V/1000Vメガーで3相(R, S, T)それぞれの対地絶縁抵抗を測定し、「1相だけの地絡か」「3相とも全滅・断線しているか」を把握します。
上のマトリクス表から「今必要な手法」を特定する
「1相地絡で健全相が残っている」ならマーレーループ法へ、「断線や全相地絡」ならパルスレーダ法へ飛んでください。定期点検・予防保全の場合はセクション4・5へ進みます。
該当セクションの公式・結線図・判定数値に従って測定を実行する
以下の各セクションでは、現場で電卓を叩いて使える計算公式、機器の結線手順、測定誤差を排除する方法を詳しく解説しています。
2. 【事故点特定①】マーレーループ法(Bridge Method)
高圧ケーブルの1相地絡事故時に、最も高精度に故障位置(距離)を割り出せる伝統的かつ信頼性の高い手法です。
測定原理と距離計算公式
健全な電線(健全相)1本と故障相1本の遠端を短絡してループを作り、測定手元でホイートストンブリッジ回路を形成します。
ケーブルの片道長さを L(m)、遠端折り返しループ長を 2L(m)、ブリッジ平衡時の可変抵抗値を RA , RB とすると、測定端から地絡点までの距離 x(m)は以下の公式で求まります。
適用条件と現場での判定ポイント
| 項目 | 適用条件・判定基準 | 理由と現場での判断 |
| 健全相の有無 | 1本以上の健全相が必要 | 健全相がない全相事故では回路が作れないため適用不可 |
| 地絡抵抗 | 数kΩ 以下の低抵抗地絡 | 抵抗が高すぎるとブリッジの感度が落ちて平衡点が決まらない |
| 遠端作業 | 遠端での低抵抗短絡が必須 | 短絡ジャンパー線の接触抵抗が大きいと直接計算誤差になる |
3. 【事故点特定②】パルスレーダ法(TDR)
3相とも損傷している全相事故や、芯線の断線事故において、健全相を使わずに1本のケーブルのみで故障位置を特定できる手法です。
測定原理と波形判別ルール
ケーブル端から送信した高周波パルス波が、インピーダンス変化点(事故点)で反射して戻ってくる往復時間 t(μs)と、電波伝播速度 v(CVケーブルで約 166m/μs)から距離を割り出します。
画面に現れる反射波の極性(向き)によって、事故の種別を一目で判別できます。
【送信パルス】(上向きの山)
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【断線・開放】(上向き波形) 【短絡・地絡】(下向き波形)
反射波形の極性と物理的理由
- 上向き波形(同相反射): 断線・線間開放。インピーダンスが無限大になり、送信波と同じ向きで全反射する。
- 下向き波形(逆相反射): 短絡・完全地絡。インピーダンスがほぼゼロになり、位相が180度ひっくり返って跳ね返る。
4. 【水トリー劣化診断】直流漏れ電流法・交流重畳法
高圧CVケーブルの経年劣化(水トリー現象)による突発地絡事故を防ぐための定量的診断技術です。
直流漏れ電流法(停電診断)の判定基準
停電下で DC 6kV 〜 10kV の高電圧を印加し、10分後の漏れ電流値(μA)と過渡挙動を測定します。
| 判定区分 | 定格漏れ電流値(10分値) | キック現象(電流の揺らぎ) | 現場での機器状態と推奨アクション |
| 良好(正常) | 0.5 μA 未満 | 無(極めて安定) | 水トリーの発生なし。通常の点検周期を維持 |
| 注意(観察) | 0.5 μA 〜 5.0 μA | 微小な振動 | 内部で水トリーが進展中。次回点検での継続観測 |
| 危険(交換) | 5.0 μA 超 | 激しい不規則な跳ね上がり | 水トリーが貫通直前。早期のケーブル更新計画が必須 |
交流重畳法(活線診断)の判定基準
通電状態(AC 6.6kV)のまま、シールド接地線に流れる微弱な直流分電流(Idc)を検出します。
- 良好: 10 nA 未満
- 注意: 10 nA 〜 100 nA(停電精密診断へ移行)
- 危険: 100 nA 超(即時取替推奨)
5. 【端子部発熱診断】赤外線サーモグラフィ点検
ボルト締め付け部の緩みや接触面の酸化による接触抵抗($R$)の増大は、ジュール熱($P = I^2 R$)による熱暴走を引き起こし、相間短絡火災の原因となります。
相間温度差(δT)に基づく総合判定基準
環境温度や季節変動の影響を排出し、同一回路の別相(健全相)との温度差で評価します。
| 判定区分 | 相間温度差(ΔT) | 表面絶対温度 | 現場での機器状態と推奨アクション |
| 正常(良好) | 5℃ 未満 | 50℃ 未満 | 熱的異常なし。健全な接触状態を維持 |
| 注意(要観察) | 5℃ 〜 10℃ 未満 | 50℃ 〜 70℃ | 微小な接触抵抗増大。次回停電時に増し締めを実施 |
| 警戒(要対策) | 10℃ 〜 20℃ 未満 | 70℃ 〜 80℃ | 明らかな接触不良。早期の停電・清掃・ボルト再締め付け |
| 危険(緊急) | 20℃ 以上 | 80℃ 超 | 熱暴走状態。絶縁物溶融・火災のリスク大。即時補修 |
正確な測定のための実務ポイント
裸の金属面(ピカ銅等)は放射率が極めて低く(ε = 0.1 〜 0.2)、周囲の熱を反射して実際より低く表示されます。撮影時は放射率設定を ε = 0.95 に設定した上で、黒色テープや絶縁被覆部の表面温度を計測するのが実務の鉄則です。
6. おわりに:確実な故障点特定と予防保全で波及事故を防ぐ
高圧ケーブルの障害位置特定と劣化診断に関する全技術体系が整理できたでしょうか。
事故発生時の迅速な復旧対応(マーレーループ法・TDR法)と、事故を未然に防ぐ予防保全(水トリー診断・サーモグラフィ)は、自家用電気工作物の保安信頼性を担保する両輪です。
確実な理論数値と測定手続を身につけ、現場でのトラブル発生時に冷静かつ正確な技術判断を下せる施工管理技士・電気技術者を目指していきましょう。