架空配電線(OW線やOC線など)を電柱間に架線する際、電線を直線状に張りすぎても、逆に弛ませすぎても重大な設備事故につながります。この支持物間における電線の垂れ下がり量を弛度(ちど)と呼びます。
強風による横揺れや、夏季・冬季の温度変化に伴う電線の熱伸縮、風圧・積雪荷重を考慮し、規定通りの弛度を確保して張線(線引き)を行うことは、配電工事の基本です。
この記事では、弛度の計算理論から、現場で必須となる外気温補正と弛度表の読み方、シメラーや張力計を使った具体的な施工手順、現場での測定手法を解説します。
弛度の役割と不適切な場合のリスク
支持物(電柱)の間に張られた電線は、自重によって放物線(厳密にはカテナリー曲線)を描いて垂れ下がります。
張りすぎ(弛度不足)による障害
冬季の低温収縮や、台風時の強風荷重、積雪による着雪荷重が加わった際、電線の許容引張荷重を超えて断線事故を引き起こします。
また、電線の強い張力が腕金や電柱に常時加わることで、不平衝荷重により腕金の曲がりや電柱の傾斜・折損を招く原因となります。
電柱が電線路側に傾く分には他の線で電柱を支えられますが、住宅側や道路側に傾斜してしまうのが一番危ないです。電柱を支える役目の支線がないと、一度傾く原因ができてしまうと、徐々に傾きが強くなってしまいます。
緩みすぎ(弛度過大)による障害
強風時に電線同士が大きく横揺れ(ギャロッピングやサブスパン振動)を起こし、相間短絡(ショート)や地絡事故を引き起こします。
さらに、電線最下部の地上高が低下し、道路横断高さ(5.0m以上)や建造物との安全離隔距離を割り込む法令違反リスクが生じます。
「横」の離隔にも注意が必要です。揺れがない時には安全距離を確保できていたものの、風で揺れた時に接触したという改修工事もしたことがあります。
弛度の計算公式と外気温による伸縮補正
弛度 D(単位:m)は、電線の単位長あたりの合成荷重、支持物間の距離(径間)、および電線に加えられる水平張力によって決定されます。
弛度(D)の基本計算公式
電線の弛度 D は以下の基本式で求められます。
- w:電線の合成荷重(N/m)
- S:径間長(m)
- T:電線の水平張力(N)
この公式からわかる通り、 弛度D は径間 S の2乗に比例し、張力 T に反比例します。径間が2倍になれば、同じ張力で張った場合の利ざがりは4倍になります。
外気温に伴う膨張係数と温度補正
電線素材(硬銅線・アルミ線)は温度変化によって伸縮します。施工時の外気温 t に応じた線膨張係数 α(銅線:約 1.7 × 10^-5℃)を考慮しないと、施工後に温度変化が起きた際、張力が激変します。
- 夏季(高温時): 電線が伸びて弛度が大きくなるため、施工時は張力を強めにして目標弛度に合わせる。
- 冬季(低温時): 電線が縮んで弛度が小さくなるため、施工時に張りすぎると寒冷期に過緊張となる。
正直、施工している時は温度による弛度の違いは些細な感覚です。ただし、夏は電線が柔らかく張りやすいです。反対に、冬は電線が固く重く感じるため張りにくいです。なので、目安さえあればなんとなく夏も冬も合ってくるはずです。
現場での標準弛度表の読み方
実務の現場では、毎回複雑な計算を行うのではなく、電力会社や電線メーカーが発行している「標準弛度表」を使用します。
弛度表は、使用する電線種別(例:OC 60sq)、径間長(30m、40m、50mなど)、および施工時の外気温(-10℃〜40℃)の縦横のマトリクス表になっており、当日の現場気温に対応する弛度(cm単位)と指定張力(kN単位)を正確に読み取って作業を進めます。
3. 張線作業における使用工具と施工手順
延線された電線を引き締め、規定の弛度で耐張碍子部や固定部に定着させるまでの実務手順です。
施工で使用する主な工具・資材
- カムラー(電線掴み器)
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電線の被覆を傷つけずに強力に噛み込んで保持する自重締め付け式の工具。
- シメラー(カムラー付張線器)
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ラチェット機構やチェーンを用いて電線を徐々に引き寄せる張線工具。
- 指示秤(張力計)
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シメラーと電線の間に接続し、引張荷重(kN)をリアルタイムで計測する測定器。
- リード金車(延線用ローラー)
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腕金に取り付け、線引き時の電線被覆の摩耗を防ぐローラー装置。
張線(線引き)の具体的な作業手順
各電柱の腕金にリード金車を装着し、ドラムから繰り出した電線を引き通します。被覆に傷がつかないよう地上引きずりを防止します。
端末の耐張碍子側にカムラーをセットし、シメラーおよび指示秤(張力計)を接続して固定点へ繋ぎます。
シメラーのハンドルを操作して電線を引き締めます。指示秤の荷重値と目視での弛度を確認しながら、当日の外気温に対応する標準弛度表の指定数値まで徐々に張力を高めます。
目標の弛度・張力に達した段階で、耐張碍子部の耐張クランプを締め付けるか、バインド線を用いて電線部を固定します。
固定が完了したらシメラーの緊張を緩め、カムラーおよびリード金車を取り外します。
4. 現場での弛度測定手法(等長目視法・ウェーブ法)
張り上がった電線の弛度が設計数値通りに収まっているかを現地で確認する代表的な計測手法です。
等長目視法(ターゲット板法)
小径間および一般配電線で最も広く用いられる直感的な測定手法です。
両端の電柱の腕金から、指定された弛度寸法 D と同じ長さだけ下げた位置に、目盛り付きのターゲット板(標識板)を取り付けます。一方の電柱から反対側のターゲット板を目視(または双眼鏡で確認)し、電線の最下部(カテナリーの頂点)が両側のターゲット板を結ぶ視線上に重なっているかを確認します。
ウェーブ法(反射波法)
比較的大径間の現場や、目視確認が困難な場所で用いられる測定手法です。
電柱の根本付近で電線を叩いて横波を発生させ、その波が隣の電柱で反射して手元に戻ってくる往復時間 t(秒)をストップウォッチで測定します。往復回数 n と時間 t から、以下の簡易計算式を用いて弛度 D を算出します。
- g:重力加速度(9.8 m/s^2)
- t:波が往復するのにかかった合計時間(秒)
- n:波の往復回数
5. まとめ
弛度は径間の2乗に比例し、張りすぎ・緩みすぎのどちらも設備事故の原因となる。
施工当日の外気温を正確に測定し、標準弛度表から該当する弛度と指定張力を読み取る。
カムラーやシメラーを使用する際は被覆の損傷を防ぎ、指示秤(張力計)で過緊張を防止する。
施工後は等長目視法やウェーブ法を用いて、実際の弛度が規定値内に収まっているか確認する。
気候や温度などの地域性、または管轄の電力会社のマニュアルによっても理想的な弛度は必ずと言っていいほど違いがあるでしょう。ここでは、あくまで理屈を覚えることとし、実際の作業や指示はその現場に合わせて適切に行ってください。