高圧CVケーブルや地中配線で1相地絡事故(絶縁破壊)が発生した際、地中に埋設されたケーブルを無闇に掘り返すことは不可能です。事故箇所を最小限の範囲でピンポイント特定するために用いられる代表的な測定技術がマーレーループ法(Murray Loop Method)です。
マーレーループ法は、ホイートストンブリッジの平衡条件を利用し、電線(導体)の電気抵抗が長さに比例する性質を利用して地絡点までの距離を割り出す手法です。
この記事では、マーレーループ法の基本原理から、現場でそのまま使える計算公式と計算例、具体的な結線・測定手順、精度を高めるための実務条件までを徹底解説します。
1. マーレーループ法の測定原理と適用条件
マーレーループ法は、健全な電線(健全相)と地絡した電線(故障相)の遠端を短絡して1つのループ回路を作り、測定端に直流ブリッジ回路を形成して測定します。
マーレーループ法が適用できる3つの必須条件
この測定手法を適用するには、事前に以下の条件を満たしている必要があります。
| 項目 | 適用に必要な条件 | 理由と現場での注意点 |
| 健全相の確保 | 故障ケーブル内に 1本以上の健全な線(健全相) が存在すること | 3相ともすべて地絡・完全焼損している場合は適用不可(パルス波法等を使用) |
| 地絡抵抗の範囲 | 地絡点の対地抵抗(故障抵抗)が 数kΩ 以下 であること | 抵抗がメガオーム級に高すぎる場合はブリッジの感度が落ちるため、高圧ブリッジ法等を使用 |
| 遠端の短絡 | ケーブル遠端(反対側)で健全相と故障相を 低抵抗で短絡 できること | 遠端の短絡抵抗が大きいと大きな計算誤差の原因となる |
2. 距離計算の基本公式と実践例
マーレーループ法の計算は、ブリッジが平衡状態(検流計の電流がゼロ)になったときの抵抗比から算出します。
地絡点までの距離(x)を求める計算公式
ケーブル全体の片道長さを L(m)、遠端で折り返したループ全体の長さを 2L(m)とし、ブリッジの可変抵抗(ダイヤル値)を $R_A$、$R_B$ とすると、測定端から地絡点までの距離 x(m)は以下の公式で求められます。
※ RB は故障相側に接続された抵抗アーム、RA は健全相側に接続された抵抗アームです。導体の材質・太さが全長にわたって均一であれば、導体抵抗の比率がそのまま距離の比率となります。
【実践例】500mの高圧CVTケーブルでの地絡位置計算
実務での具体的な計算手順を追ってみましょう。
現場での測定条件
| 測定項目 | 設定・測定数値 |
| 対象ケーブル | 6.6kV CVT 100sq(全長 L = 500m) |
| ループ全長(2L) | 500m × 2 = 1,000m |
| ブリッジ平衡時の抵抗比 | RA = 800Ω 、 RB = 200Ω |
計算ステップ
公式に数値をあてはめます。
【測定結果】:
測定端(手元)から 200m 進んだ地点の地中(またはハンドホール内) で1相地絡事故が発生していると特定できます。
3. 現場での具体的な測定手順と作業フロー
現場でマーレーループ装置(マーレーループ用測定器)をセットして計測を行う実務手順です。
ステップ1:安全確保と残留電荷の放電
高圧ケーブルの一次側・二次側を完全に開放(遮断)し、作業前には必ず放電棒を用いてケーブルの残留電荷を完全放電します。放電を行わないと測定器の破損や感電事故につながります。
ステップ2:遠端の短絡処理(ジャパー線施工)
ケーブル遠端において、故障相と健全相の導体同士を太いクリップ(ジャンパー線)で短絡します。この際、短絡部の接触抵抗が極めて小さくなるよう、端子部の酸化皮膜を磨いて確実に締め付けます。
ステップ3:測定端での機器結線
測定端において、マーレーループ測定器の端子を以下のように接続します。
- C1 / P1 端子(健全相側): 健全相の導体に接続
- C2 / P2 端子(故障相側): 地絡している故障相の導体に接続
- E(アース)端子: ケーブルの金属シールド(接地線)および構造物接地へ接続
ステップ4:ブリッジの平衡操作と数値読み取り
測定器の電源(内蔵電池または外部電源)を投入し、検流計の針が中央(ゼロ)を指すように可変抵抗ダイヤルを調整します。針が完全に停止した位置の抵抗値 $R_A$ , $R_B$(または抵抗比率)を読み取ります。
4. 測定誤差を排除するための4つの実務テクニック
マーレーループ法で算出された位置と、実際の事故点が数メートルズレてしまうと無駄な掘削作業が発生します。誤差を最小限に抑えるためのポイントです。
1. 遠端短絡線の抵抗値を極小化すること
遠端で繋ぐ短絡用ジャンパー線の抵抗が大きいと、その抵抗分がケーブル長さに上乗せされて誤差になります。断面積が大きく短く太いリード線を使用し、クリップの噛み込みを強固にしてください。
2. 異種太さ接続時の「換算思考」を持つこと
途中でケーブルの太さ(sq数)が変わっている場合、導体抵抗が異なるため直接の距離算出ができません。太いケーブルの長さを、抵抗値が等しくなるように標準サイズの長さに「等価長さ換算」してから計算を行う必要があります。
3. 接続リード線の往復抵抗(リード線補正)を行うこと
手元の測定器からケーブル端子までのリード線自体にもわずかな抵抗があります。高精度な装置では4端子法(電圧・電流端子分離)を採用するか、測定前にリード線のゼロ点補正を実施します。
4. 測定リードの極性を入れ替えて再測定すること
地絡点にわずかな起電力(異種金属による電池効果や熱電起電力)が存在すると、測定値が振れる原因になります。電源の極性を反転させて2回測定し、その平均値を採用すると精度が高まります。
5. おわりに:現場で失敗しないための実務アドバイス
マーレーループ法は、測定原理さえ理解していれば現場で迅速かつ高精度に事故位置を特定できる非常に強力な手法です。
最後に、事故現場に臨む現場代理人・技術者が覚えておくべき3つの実践ポイントをお伝えします。
測定前に必ず「メガー(絶縁抵抗計)」で各相の対地抵抗を確認すること
いきなりマーレーループ器を繋ぐのではなく、まず500Vまたは1000Vメガーで3相(R, S, T)それぞれの対地絶縁抵抗を測定します。完全に絶縁が保たれている相を「健全相」、抵抗値が低下している相を「故障相」として明確に特定してから結線に入ってください。
ケーブルの「実長(敷設ルートの余裕)」を忘れないこと
計算で「測定端から200m」と出た場合、それは図面上の直線距離ではなく「実際のケーブル長」です。立ち上がり部分、キュービクル内の余長、立ち下がり、蛇行敷設(スラック)の長さを考慮して地表位置を割り出してください。
高抵抗地絡(数メガオーム以上)では無理追従しないこと
絶縁破壊が軽微で地絡抵抗が高い場合、マーレーループの検流計が振れず正確な平衡点が決まりません。その場合は無理に測定せず、高圧印加で一時的に地絡抵抗を低下させる「焼損処理」を行うか、パルス波(TDR法)を用いた測定器へ切り替えてください。
論理的な測定技術と現場での正確なデータ処理を組み合わせ、ケーブル事故時の迅速な復旧対応を実現しましょう。