地中高圧ケーブルや配線設備で断線や短絡・地絡事故が発生した際、健全な線(健全相)が残っていなくても1本で迅速に障害位置を割り出せる手法がパルスレーダ法(TDR:Time Domain Reflectometry)です。
ケーブルの一端から高周波のパルス信号を送り込み、インピーダンスの変化点(事故点や接続部)から跳ね返ってくる反射パルス波の「往復時間」と「極性(向き)」を解析して距離と事故形態を特定します。
この記事では、パルスレーダ法の測定原理から、現場で必須となる波形判別の読み方、伝播速度を用いた距離計算公式、測定手順とを詳しく解説します。
1. パルスレーダ法(TDR)の測定原理とメリット
ケーブル内に電気的インピーダンス(交流抵抗)が急変するポイントがあると、伝播するパルス信号の一部(または全部)が入力側へ跳ね返ってくる物理現象を利用します。
マーレーループ法と比較したTDR法の強み
マーレーループ法が「健全相の確保」と「遠端の短絡作業」を前提とするのに対し、パルスレーダ法には現場での大きなアドバンテージがあります。
| 比較項目 | マーレーループ法 | パルスレーダ法(TDR) | 現場での実務的な違い |
| 必要な電線数 | 2本(故障相 + 健全相1本) | 1本のみ で測定可能 | 3相すべてが損傷している全相事故でも測定できる |
| 断線事故への対応 | 測定不可(電流が流れないため) | 測定可能 | 事故種別(断線・短絡)を選ばず適用できる |
| 遠端での作業 | 遠端でジャンパー短絡が必要 | 遠端作業は不要(開放のままでOK) | 遠端が遠方や施錠区域にあっても手元だけで完結する |
2. 反射波の形(極性)で事故種別を見分ける波形解析
TDRの測定画面には、送信パルスと反射パルスが波形グラフとして表示されます。反射波の「向き(プラスかマイナスか)」を見ることで、事故の性質が一目で判定できます。
【送信パルス】(上向きの山)
│
──────┴───────────────────────────────────
▲ ▼
【断線・開放】(上向き波形) 【短絡・地絡】(下向き波形)
反射パルスの極性と事故状態の対比
| 故障の形態 | インピーダンス変化 | 反射波の極性(画面上の波形) | 波形が発生する技術的理由 |
| 芯線の断線・線間開放 | ∞(無限大)へ急増 | 送信パルスと同位相(上向きの山) | 端部で全反射が起き、送信波と同じ極性で跳ね返るため |
| 芯線の短絡・完全地絡 | 0Ω に極小化 | 送信パルスと逆位相(下向きの谷) | インピーダンスの急減により、位相が180度反転して跳ね返るため |
| 中間接続部(NJ・CJ) | わずかな変化 | 極めて小さな山または谷 | 接続部特有のわずかな構造変化による微小反射 |
同相反射(上向き)になる理由
ケーブルが断線している場所では、電気の通り道が突然途切れ、インピーダンスが無限大になります。ここへ達したパルス波は、壁にぶつかった波のように位相を変えずそのままの向き(上向き)で跳ね返ってきます。
逆相反射(下向き)になる理由
逆に地絡や短絡によって芯線が接地・短絡している場所では、インピーダンスがほぼゼロになります。波が打ち消される方向に働くため、位相がひっくり返り、下向きの波形となって戻ってきます。
3. 事故点距離の計算公式と伝播速度(VOP)
パルス波が送信されてから反射波が戻るまでの往復時間 t(マイクロ秒)と、ケーブル内の電波伝播速度 v を用いて距離を導き出します。
距離計算の公式
パルスは事故点までを往復するため、距離 x(m)は時間を2で割って算出します。
ここで、v はケーブル内の電波伝播速度(m/μs)、t はパルス送信から反射波受信までの往復時間(μs)です。
高圧CVケーブルにおける伝播速度(VOP)の標準値
絶縁体の材質によって電波の伝わるスピード(伝播速度)が定まっています。
- 高圧CV・CVTケーブル(架橋ポリエチレン): 約 160 〜 170m/μs(実務上の計算基準値:166m/μs)
- VV・VVFケーブル(ビニル絶縁): 約 140 〜 150m/μs
※ 1マイクロ秒(μs)の間に、CVケーブル内を電波は約166メートル進みます。
【実践例】断線事故発生時の距離割り出し
全長不明のCVケーブルでTDR測定を実施し、送信パルスから 3.0μs 後に上向きの反射波が確認された場合の距離を求めます(伝播速度 v = 166m/μsと設定)。
【判定】
上向きの波形であることから「断線事故」であり、測定端から 249m 地点で断線が発生していると割り出せます。
4. 現場での測定手順と精度を高めるテクニック
TDR測定器を現場でセットし、正確な波形をキャッチするための実務フローです。
測定手順のステップ
対象ケーブルの両端を機器から取り外し、放電棒で残留電荷を完全に落とします。
TDR測定器の出力リードを、対象相の導体とシールド層(接地)へ接続します。
測定器のパルス幅設定(ナノ秒〜マイクロ秒)を調整します。
表示画面上で、送信パルスの立ち上がり点にカーソルAを合わせ、最初の明確な反射波の立ち上がり点にカーソルBを合わせます。画面に自動算出された距離を表示させます。
パルス幅の選定による解像度調整
| パルス幅の設定 | 特徴とメリット | デメリット | 現場での使い分け |
| 狭いパルス幅(数ns〜十数ns) | 距離の解像度が高く、近距離の事故点を精密に特定できる | パルスエネルギーが弱く、遠くまで届かない | 近距離(〜数億円程度) や中間接続部の位置特定 |
| 広いパルス幅(数百ns〜μs) | パルスエネルギーが強く、長距離(数km)まで到達する | 波形の幅が広くなり、距離の分解能(精度)が落ちる | 長距離敷設線(数千m級) の大まかな事故点特定 |
5. おわりに:現場で失敗しないための実務アドバイス
パルスレーダ法(TDR)は、健全相が残っていない過酷な事故現場でも単独で位置を特定できる非常に実用的な技術です。
最後に、現場で波形を読み解く際に代理人・技術者が注意すべき3つのポイントをお伝えします。
「高抵抗地絡(数メガオーム)」では明確な波形が出ないこと
TDRの低電圧パルス(数V〜十数V)は、完全にショートしているか完全に切れている状態でないと明瞭な反射波が得られません。地絡抵抗が数メグオーム以上ある微小地絡の場合は、高圧サージを印加して事故点でアークを発生させて測定する「サージパルス法(衝動電圧法)」への切り替えが必要です。
中間接続部(NJ・CJ)の「ノイズ波形」と誤認しないこと
長距離ケーブルの途中に直線接続部(NJ)があると、そこでも小さな反射波が発生します。事故波形と勘違いしないよう、竣工時のケーブルルート図や接続点位置の図面と照合しながら波形を読み取ってください。
健全な別相の波形と「重ね合わせ比較」を行うこと
3相(R, S, T)のうち1相だけが事故を起こしている場合は、健全な他の相のTDR波形も測定し、画面上で2つの波形を重ね合わせて表示(比較機能)させます。2つの波形が乖離(分岐)し始めるポイントがまさに事故位置となるため、一目で判別が可能になります。
理論に裏打ちされた波形解析技術を身につけ、地中ケーブルのトラブルに冷静かつ迅速に対処していきましょう。