自家用電気工作物や地中配線設備において、高圧CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)の経年劣化による突発地絡事故(波及事故)を防ぐ要となるのが水トリー劣化診断です。
水トリー現象は、ポリエチレン絶縁体内部に微量な水分と高電界が長期間加わることで樹枝(トリー)状の微細な放電・劣化経路が形成される現象であり、目視点検では一切判別できません。
この記事では、水トリーの発生メカニズムから、停電点検の定番である「直流漏れ電流法」、無停電で診断可能な「交流重畳法」の測定原理・判定基準値、そして現場で測定誤差を防ぐための実務ノウハウまで詳しく解説します。
1. 水トリー現象の3パターンと劣化メカニズム
高圧CVケーブルの絶縁体(架橋ポリエチレン)内部で発生する水トリー現象は、発生位置と形状によって主に3つのパターンに分類されます。
水トリーの分類と危険度

| 水トリーの分類 | 発生位置と特徴 | 絶縁破壊に至る危険度と影響 |
| 内導水トリー | 導体側の内部半導電層から絶縁体へ向かって進展 | 極めて危険。電界が最も強い導体近傍から伸びるため、貫通(絶縁破壊)に直結しやすい |
| 外導水トリー | 遮蔽層(銅テープ)側の外部半導電層から内部へ進展 | 危険。シース破損等による外部水分の侵入が主因。成長すると貫通地絡を引き起こす |
| ボウタイ状水トリー | 絶縁体(架橋ポリエチレン)内部のボイド(気泡)や異物から両側へ進展 | 比較的緩やか。両端が導体に達するまでは進展速度が遅いが、多数発生すると全体の性能が低下する |
水トリーが進展して絶縁体を貫通すると、微少な局所放電(パルス)を繰り返し発生させながら、最終的に高圧地絡事故(アーク短絡)へ発展します。これを未然に防ぐため、定期的な定量的診断が不可欠です。
2. 【停電診断】直流漏れ電流法(DC漏れ電流測定)の判定基準
年次点検などの停電可能時に行われる最も実績豊富で標準的な測定方法が直流漏れ電流法です。
測定原理と印加電圧
ケーブルの導体・遮蔽層間に規定の直流高電圧(6.6kV CVケーブルでは一般に DC 6kV 〜 10kV)を印加し、絶縁体を通じて遮蔽層(アース)へ流れる微小な漏れ電流(マイクロアンペア [μA] オーダー)を直流高圧漏れ電流計で計測します。
水トリーにより絶縁性能が低下していると、漏れ電流値が著しく増大し、電流波形に過渡的な揺らぎが発生します。
直流漏れ電流法における総合判定基準表
一般社団法人日本電気協会や電気学会の技術指針に基づく、6.6kV CVケーブルの代表的な診断基準です。
| 判定項目 | 良好(正常) | 注意(経年劣化あり) | 危険(即時交換推奨) | 現場での判断・解説 |
| 漏れ電流値(10分値) | 0.5 μA 未満 | 0.5 μA 〜 5.0 μA | 5.0 μA 超 | 10分間電圧印加後の安定した漏れ電流値。5.0$\mu\text{A}$を超えると貫通のリスクが非常に高まる |
| キック現象(電流の振れ) | 無(極めて安定) | 微小な振動 | 激しい不規則な振れ | 漏れ電流値の針が周期的に大きく跳ね上がる現象。水トリー部での微小放電を示す重要指標 |
| 3相不平衡率 | 2倍 未満 | 2倍 〜 3倍 | 3倍 超 | R・S・T相間の最大電流と最小電流の比率。1相のみ急激に電流が大きい場合は局所劣化を疑う |
| 電荷吸着特性(G-t特性) | 時間とともに減少(安定) | 減少幅が鈍化 | 時間経過で増大傾向 | 印加開始直後の充電電流が減衰せず、逆に時間とともに電流が増加する場合は非常に危険 |
3. 【活線診断】交流重畳法(AC Superimposition Method)の判定基準
工場や24時間操業施設など、容易に停電が取得できない需要家において、商業電源(AC 6.6kV)を通電させたままオンラインで水トリー劣化を診断できる手法が交流重畳法です。
測定原理と特徴
水トリー部が高電界の交流電圧を受けると、整流作用(整流特性)によって微少な直流分電流(Idc:ナノアンペア μA オーダー)が発生する性質を利用します。
接地線(シールド層)から取り出した接地線電流から、高感度センサとフィルタを用いてこの微弱な直流分電流や微少放電パルスを検出し、劣化状態を解析します。
交流重畳法における直流分電流($I_{\text{dc}}$)の判定基準
| 判定区分 | 直流分電流値(Idc) | 現場での機器状態と推奨アクション |
| 良好 | 10 nA 未満 | 水トリーの発生・進展はほとんど認められない。通常の点検周期を維持 |
| 注意 | 10 nA 〜 100 nA | 水トリーの進展が懸念される。次回年次点検での精密診断(停電直流漏れ電流法)を計画 |
| 危険 | 100 nA 超 | 水トリーが絶縁体をほぼ貫通している可能性が高い。早急なケーブル取替計画が必要 |
4. 現場での測定手順と精度を高める実務上の注意点
水トリー測定は、測定環境や前処理によって数値が大きく変動するため、現場での厳格な測定管理が求められます。
直流漏れ電流測定の実務ステップ
ケーブル両端のトランス・VCB・PASから導体を切り離して完全に空中へ開放し、放電棒で残留電荷を完全に落とします。
ケーブルシールド(銅テープ)の接地線を接地端子から一時的に取り外し、測定器の電流検出端子(Guard / Earth)へ正しく接続します。
DC 1kV、3kV、6kV(10kV)と段階的に昇圧し、各ステップでの電流の挙動(過渡応答)を確認します。
規定電圧(6kV等)に達してから 1分値および10分値 の漏れ電流を正確に記録します。
直流高圧印加後はケーブルが強力に帯電(電荷蓄積)しているため、測定終了後は必ず 印加時間の2倍以上(最低5分以上)放電棒を導体に接地 して放電させます。
測定誤差を防ぐための3つの現場テクニック
1. 端末処理部(ガード端子)の表面漏れ電流の除去
ケーブル端末(水切り部やストレスコーン)の表面が汚損・吸湿していると、絶縁体内部ではなく「端末表面」を伝って漏れ電流が流れてしまい、偽の危険判定が出ます。測定時は端末部をシリコンスプレーで清掃するか、端末にガード線を巻き付けて測定器のガード(G)端子へ接続し、表面漏れ電流をキャンセル(バイパス)します。
2. 外気温と湿度の影響補正
ポリエチレンの体積抵抗率は温度が上がると低下します。夏季(高音時)は冬季(低温時)に比べて漏れ電流値が大きくなる傾向があるため、測定時の周囲温度と湿度を必ず記録し、標準温度(20℃換算)への補正を行って過去データと比較します。
3. 事故予防のための「キック現象」の目視監視
デジタル表示の測定器であっても、バーグラフ表示やアナログメーターの動きを注視します。漏れ電流の平均値が 0.2μA(良好値)であっても、時折「ピクッ」と数 μA 跳ね上がるキック現象が確認された場合は、内部で水トリーの局所スパークが発生しているサインであり、実務上は「注意〜危険」として扱います。
5. おわりに:現場で失敗しないための実務アドバイス
高圧CVケーブルの水トリー劣化診断に関する測定理論と判定基準値が整理できたでしょうか。
ケーブル事故は需要家全体の全停電を引き起こすだけでなく、電力会社への波及事故に発展すると多大な損害賠償責任が発生します。最後に、現場代理人・電気管理技術者が心得るべき3つの実践ポイントをお伝えします。
布設後15年を超えたCVケーブルは「水トリー警戒期」と認識すること
1990年代以前に製造・布設された旧型のCVケーブル(特に水切り遮蔽層のない初期CVや水気の多い地中配管敷設線)は、15〜20年を経過すると水トリー発生率が急激に跳ね上がります。高年式ケーブルは停電漏れ電流測定を必須項目として提案してください。
単発データではなく「経年トレンド(傾向管理)」で評価すること
漏れ電流値はケーブル長や布設環境によって初期値が異なります。「1回測定して2μAだったから安心」ではなく、前回の測定値(例:0.2μA ➔ 0.8μA ➔ 2.1μA)という上昇カーブ(経年変化の傾き)を管理し、変化が急激になったタイミングで更新勧告を出すことが重要です。
活線診断と停電精密診断を組み合わせること
普段は無停電の「交流重畳法」でスクリーニング点検を行い、そこで「注意」信号が出た回線に対して、年次停電時に「直流漏れ電流法」で精密診断を行う二段階の管理体制を構築するのが、最もコストパフォーマンスと安全性の高い保全戦略です。
確実な劣化診断技術をマスターし、高圧電気工作物の信頼性と安全運用を守り抜きましょう。