「独立して一人親方になれば、売上1,000万円稼いで金持ちになれる」
「会社の給料でピンハネされるくらいなら、自分の腕一本で稼いだほうが絶対に得だ」
電気工事の現場で経験を積み、道具や手順を覚えた職人が一度は夢見るのが「一人親方としての独立」です。SNSや現場の噂話で「あの人は一人親方になって年収1,000万超えたらしい」という話を聞くと、心が揺れますよね。
しかし、ここで現場のプロとして冷酷な現実をお伝えしなければなりません。
「売上1,000万円」と「手取り(可処分所得)1,000万円」は全くの別物です。
売上から材料代や車のガソリン代などの「経費」を引き、さらに「国民健康保険」「国民年金」「所得税・住民税」、そして「インボイス制度による消費税」を引くと、手元に残るお金は半分以下(400万〜450万円程度)まで激減します。
この記事では、電気工事士が一人親方として独立した場合のリアルな手取り額を生々しい数字で徹底分析します。独立という大きなリスクを取る前に、知っておくべきお金のリアルを直視してください。
1. 【基本条件の目安】売上1,000万円モデルの試算前提
まずは、一人親方として電気工事(常用・請負混在)を年間250日程度こなした場合の標準的な試算モデルを設定します。
【基本条件の目安】
- 年間売上高: 1,000万円(消費税抜き)
- 稼働日数: 年間約250日(月20〜21日稼働)
- 平均人工単価: 40,000円/日(常用と小規模請負の平均)
- 家族構成: 配偶者(扶養)+子ども1人
- 事業形態: 個人事業主(青色申告65万円控除を適用)
2. 売上1,000万円の一人親方「手取り内訳」完全シミュレーション
売上1,000万円から、実際に口座へ残り、生活費や貯蓄に使える「手取り額」がどのように削られていくのかを一覧表でまとめました。
売上1,000万円から手取り算出までのステップ
| 項目 | 年間金額 | 項目別の内訳・解説 |
| ① 年間売上高 | 1,000万円 | 人工単価4万円×250日稼働 |
| ② 必要経費の合計 | ▲ 350万円 | 現場移動費、工具、車代、材料費、保険等 |
| ③ 事業所得(利益) | 650万円 | ① 売上 - ② 経費 (税金の計算対象) |
| ④ 国民健康保険料 | ▲ 65万円 | 会社員時代の「折半」がなく全額自己負担 |
| ⑤ 国民年金保険料 | ▲ 40万円 | 夫婦2人分(1人約1.7万円/月×2人×12ヶ月) |
| ⑥ 所得税+住民税 | ▲ 60万円 | 青色申告控除(65万)適用後の税額 |
| ⑦ 個人事業税 | ▲ 18万円 | 電気業(第3種事業)にかかる地方税(5%) |
| ⑧ インボイス消費税 | ▲ 30万円 | 簡易課税制度(みなし仕入率70%)適用時 |
| ★ 最終手取り額 | 約 427万円 | 売上の約42%しか手元に残らない! |
※▲はマイナス費用です。
3. なぜ手元に残らない?削られていく「経費」と「税金・社会保険」の闇
「売上650万の利益があるのに、なぜ手取りが420万程度まで減るのか?」と疑問に思うはずです。会社員時代には会社が勝手に処理してくれていた「隠れたコスト」が、一人親方になった瞬間にずっしりと肩に重くのしかかるからです。
【売上1,000万円】 ➔ [必要経費▲350万] ➔ [社会保険▲105万] ➔ [各種税金▲108万] ➔ 【手取り約427万円】
1. 現場へ行くたびに消えていく「必要経費(約350万円)」
電気工事士は身一つで仕事ができません。現場へ向かうためのコストはすべて自腹です。
- ハイエース等の車両費用・車検・保険: 年間約60万円(ガソリン代高騰が直撃)
- 現場駐車場代・高速道路料金: 年間約50万円(都心部の現場では駐車場だけで月4〜5万飛ぶ)
- 工具・計測器・消耗品・作業着代: 年間約40万円(充電工具の更新や測定器の校正費用)
- 材料代・雑費: 年間約150万円(小規模請負工事の電線・配管・配線器具)
- 一人親方労災保険・損害賠償保険: 年間約10万円(腰を据えて現場に入るための必須コスト)
- 通信費・事務費・税理士費用: 年間約40万円(確定申告やソフト利用料)
2. 折半がない「国民健康保険・国民年金」のエグい重圧(約105万円)
会社員の時は、社会保険料の半分を会社が負担してくれていました。しかし一人親方は全額自己負担です。
前年の所得(利益)が650万円あると、国民健康保険料は上限近くの年間65万円に達します。さらに厚生年金ではなく「国民年金」となるため、満額払っても将来もらえる年金は月6万円程度に激減します。
毎年利益の10%を支払っても、将来1%も手元に戻ってこないなんて・・
3. インボイス制度導入による「消費税負担(約30万円)」
かつては「売上1,000万円未満は免税事業者として消費税をポケットに入れられる(益税)」という裏ワザが使えましたが、インボイス制度により崩壊しました。
元請けから「インボイス登録してくれ」と言われ課税事業者になると、利益に対して年間約30万円以上の消費税納付が発生します。登録を拒否すれば、元請けから単価を叩かれるか、仕事を切られるリスクを抱えます。
4. 売上別「リアル手取り比較表」(800万・1,000万・1,200万円)
売上規模が変わると、手取りがどう変化するのかを売上別に比較しました。
売上規模別の手取り比較
| 売上高 | 必要経費(目安) | 税金・社会保険・インボイス | 最終手取り額(可処分所得) |
| 売上 800万円 | 約280万円 | 約180万円 | 約 340万円(月手取り約28万円) |
| 売上 1,000万円 | 約350万円 | 約223万円 | 約 427万円(月手取り約35万円) |
| 売上 1,200万円 | 約420万円 | 約260万円 | 約 520万円(月手取り約43万円) |
売上が800万円程度の場合、手取りは年間340万円(月28万円程度)にしかなりません。これでは、「ボーナスが出ない、有給もない、事故が起きたら無収入」というリスクを抱えた中堅の会社員以下の生活になってしまいます。
私の知り合いも建設業界で独立していますが、やはり病気や怪我が一番怖いと話しています。仕事が薄くなった時は、「家から遠い」「単価が安い」などの条件であっても、仕事を選べないという苦労も聞いています。
5. 【逆張りフック】「一人親方」と「リスクゼロの高年収転職」どちらが得か?
ここまで現実の数字を見て、どう感じたでしょうか?
「自由を手に入れるために独立したい」と思っていたはずが、現実には「集客に追われ、確定申告に頭を悩ませ、怪我をしたら無収入になる恐怖と戦いながら、手取り400万円強のために働く」ことになりかねません。
ここで、「会社員として施工管理・現場代理人へ転職する」という選択肢と比べてみてください。
一人親方 vs 会社員(大手・中堅施工管理)の価値比較
| 比較項目 | 一人親方(売上1,000万円) | 会社員施工管理(年収700万円) |
| 実際の年間手取り | 約 427万円 | 約 530万円(税金・社保控除後) |
| 社会保険・年金 | 全額自己負担 / 将来は国民年金のみ | 会社が半額負担 / 将来は厚生年金 |
| 有給休暇・ボーナス | 一切なし(休む=収入ゼロ) | あり(年2回の賞与+有給消化) |
| 道具・車両・ガソリン代 | すべて自腹 | 会社支給・全額会社負担 |
| 怪我・病気のリスク | 無収入(保証なし) | 傷病手当金・雇用保険で守られる |
| 仕事が切れるリスク | 自分で営業しないと無収入 | 営業部が仕事を取ってくる |
「一人親方で売上1,000万円」を目指して必死に汗を流すよりも、「1級・2級電気施工管理技士の資格を取り、優良企業の現場代理人や発注者側へ転職して額面年収700万〜800万円を狙う」ほうが、手取り額は多く、リスクは100%ゼロなのです。
「独立したい」という感情の裏に「今の会社の給料が安いから」「上が威張っていて嫌だから」という理由があるなら、独立のリスクを背負う必要はありません。あなたを高く評価してくれる別の会社へ移るだけで、悩みはすべて解決します。
参考記事:リスクなく年収700万〜800万・残業月20h以下を叶えるルートとは?
6. まとめ:数字の現実を知った上で後悔のない選択を
一人親方という生き方を否定するつもりはありません。自分の城を持ち、スケジュールをすべて自分でコントロールできる喜びは、独立ならではの魅力です。
しかし、「売上1,000万稼げば大金持ちになれる」という幻想のまま勢いで独立してしまうと、税金や経費の請求書に追われ、「こんなはずじゃなかった」と後悔することになります。
- 営業力があり、車や道具の資金も貯めており、リスクを取って事業を大きくしたい人 ➔ 「一人親方・独立」
- 現場の技術や施工管理能力を活かし、安全に高手取り・高年収を得たい人 ➔ 「優良企業・元請けへの転職」
自分がどちらのタイプなのか、冷静に自分の適性を見極めてみてください。
もし「独立のリスクが怖い」「自分の技術で安全に高給を取りたい」と感じたなら、まずは転職エージェントに登録し、自分の経歴で応募できる「年収600万〜800万円オーバーの優良求人」を一度覗いてみることをおすすめします。