高圧地中配線(6.6kV CVT/CVケーブル)の経年劣化において、最も危険かつ発見が難しい事故原因が「水トリー現象(Water Treeing)」です。
通常の日常点検やメガ―(絶縁抵抗計)測定では「異常なし(数十GΩ)」と判定されても、高圧運転中に突如として絶縁破壊(地絡爆発事故)を引き起こします。
本記事では、水トリーの発生メカニズムと種類(ボウタイ・ベンテッド)、電気主任技術者が年時点検や臨時点検で行う「直流漏れ電流試験(キック現象の解釈)」および「誘電正接(Tanδ)測定」の現場実務、判定基準、安全な残留電荷放電手順までを徹底解説します。
1. 水トリー(Water Tree)劣化の発生メカニズムと3大分類
水トリーとは、架橋ポリエチレン絶縁体内部に水分が存在する状態で、高電界(交流高圧電圧)が長期間加わることで、ポリエチレン分子鎖が物理的・化学的に破壊され、木の枝状(樹枝状)に微細な水分ギャップが伸長する劣化現象です。
水トリー発生の3大必須要素
- 水分(Water): ハンドホール水没、管路内結露、端子部からの雨水浸入
- 高電界(Electric Field): 6.6kV等の交流常用電圧、突入サージ・雷サージ
- 欠陥(Defect): 絶縁体内部のボイド(気泡)、突起、微細異物、半導電層の傷(ナイフ傷)

| 水トリーの種類 | 発生起点 | 伸長方向・特徴 | 危険度と地絡リスク |
| ボウタイツリー (Bow-tie Tree) | 絶縁体内部のボイド(気泡)や微細な異物 | 内部から両側(蝶ネクタイ状)へ広がる。成長速度は比較的遅い。 | 中(単体では貫通しにくいが、密度が増すと貫通事故へ) |
| 内ベンテッドツリー (Inner Vented Tree) | 内部半導電層(導体素線との境界部)の突起・傷 | 内側(導体)から外側に向けて伸長する。 | 高(水分の供給が続くと外部半導電層へ到達して地絡) |
| 外ベンテッドツリー (Outer Vented Tree) | 外部半導電層(遮蔽銅テープとの境界部)の傷・水分 | 外側から内側(導体)に向けて伸長する。外部水分の影響を直に受ける。 | 極高(ハンドホール水没等で多発し、貫通地絡事故の主原因となる) |
2. 直流漏れ電流試験(DC Leakage Current Test)の現場実務
通常の500V/2000Vメガーでは電界が弱すぎて水トリー先端の微小放電を検出できません。そのため、直流高電圧(DC 5kV 〜 10kV)を印加して漏れ電流の微小な変化を測定します。
[直流高圧発生装置] ─── (DC 10kV 印加) ───► [CVTケーブル 導体]
│
▼ (微小漏れ電流 $I_r$)
[微少電流計 (μA)] ◄─── (遮蔽銅テープ E) ──────────┘
① 電流成分と「キック現象(跳ね上がり)」
直流電圧を印加した瞬間に流れる電流は、以下の3つの成分の合計です。
- 充電電流(Ic): ケーブルの静電容量(コンデンサ成分)に充電される電流。数秒でゼロになる。
- 吸収電流(Ia): 絶縁体の分極作用による電流。数分(1〜10分)かけて徐々に衰退する。
- 漏れ電流(Ir): 絶縁体自体を通り抜けて大地へ流れる真の漏れ電流。正常品は一定値に収束する。

② 直流漏れ電流試験の判定基準(6.6kV CVTケーブル)
| 評価項目 | 健全(良) | 注意(要観察) | 危険(即交換) |
| 漏れ電流絶対値(10分値) | 0.5 μA 以下 | 0.5 μA〜 2.0 μA | 2.0 μA 超 |
| 電流の時間変化率(1分値/10分値) | 時間とともに減少(収束) | 時間変化が横ばい | 時間とともに電流が増加 |
| 相間不平衡率 | 3相(R,S,T)が同等 | 1相だけやや高い | 1相だけ他相の2倍以上 |
| キック現象(針の跳ね上がり) | なし(振れなし) | 判定不可 | あり(不規則なパルス状電流検出) |
【キック現象(Kick)は即レッドカード】
漏れ電流の絶対値が 0.2 μA と極めて低い値であっても、試験中に電流計の針が「ピクッ、ピクッ」と微小に跳ね上がる(キック現象)場合、水トリーの先端で局所的な微小アーク放電が起きている証拠です。近い将来(数日〜数ヶ月内)に貫通地絡するため、即時更新判定となります。
3. 誘電正接(Tanδ:タンデルタ)測定の原理と判定
Tanδ測定は、ケーブルに交流商用電圧(6.6kV回路では対地電圧 E = 3.8kV)を印加し、絶縁体の誘電損失(エネルギーロス)の割合を測定する高精度な診断手法です。
① Tanδ(誘電正接)の原理
健全な絶縁体(コンデンサ)に交流電圧をかけると、流れる電流の位相は電圧に対して90°進みます。しかし、水トリー等で劣化が進むと抵抗成分(R)が増加し、位相の進みが 90° より δ(デルタ)だけ遅れます。この tanδ(タングランド・デルタ)をパーセンテージ(%)で表示したものです。
② Tanδ測定の判定基準(AC 3.8kV 印加時)
| 判定等級 | Tanδ(%)実測値 | ケーブルの状態と現場での推奨処置 |
| 良(Good) | 0.1 % 未満 | 絶縁状態は良好。次回の定期点検(1〜3年後)まで継続使用可能。 |
| 注意(Caution) | 0.1 〜 0.5 | 水トリーの発生・伸長が疑われる。年時点検ごとの追跡測定を実施。 |
| 危険(Danger) | 0.5 % 超 | 水トリーが絶縁体の大部分を貫通している。早期のケーブル張り替え(更新)が必要。 |
4. 【命に関わる現場手順】試験完了後の「残留電荷放電(接地放電)」
直流漏れ電流試験(DC 10kV印加等)を行った後のケーブルは、巨大な高圧コンデンサとして大量の静電電荷(電荷)を蓄積しています。放電を行わずにケーブル端子に触れると、強烈な感電事故(最悪の場合心停止)を引き起こします。
[DC 10kV 試験終了] ➔ 1. 電圧出力OFF
➔ 2. 放電抵抗付き接地棒で ゆっくり接触放電(約1分間)
➔ 3. 直接アース線で 確実に完全短絡接地
➔ 4. 検電器で 無圧確認 ➔ ケーブル触口
放電施工の2段階ステップ
放電棒(100MΩ程度の高抵抗が内蔵された接地棒)の先端をケーブル導体に緩やかに接触させ、「シュー」という放電音とともに急激なサージ電流を抑えながら徐々に放電させます。最初から直接アース線を当てると、放電スパークで測定器の精密微少電流計が破壊されます。
抵抗放電後、直接アース線(D種接地)を導体にガッチリ挟み込み、そのまま一定時間(最低5分以上)接地状態を維持します。架橋ポリエチレン内部の「吸収電荷(残存電荷)」がじわじわと表面に現れる(復元電圧現象)ため、作業中はずっと接地線を掛けっぱなしにするのが鉄則です。
5. 現場で実際に起きた事故・失敗事例
【失敗事例1:2000Vメガーで「∞(良)」判定のケーブルが、翌週に爆発地絡】
状況: 年時点検にて2000V高圧絶縁抵抗計で測定したところ、判定値は「20,000 MΩ(無限大)」であり、判定表に「異常なし」と記載して受電した。
結果: 受電から6日後の大雨の日、地中埋設部のCVTケーブルが爆発を起こして全館停電(波及事故)。解体調査したところ、水トリーが絶縁体の90%まで達しており、常用電圧(6.6kV)のピーク電圧で完全に貫通した。
対策: 10年以上経過した地中配線・水没懸念ケーブルは、メガーだけでなく「直流漏れ電流試験」または「Tanδ測定」をセットで提案・実施する。
【失敗事例2:残留電荷の放電不足による測定器のパンクと作業者感電】
状況: R相の直流漏れ電流試験(DC 10kV)が終了した後、放電棒を1秒間チョンと触れただけで放電完了と勘違いし、すぐに接地線を外してS相の試験へ移ろうとした。
結果: ケーブル内に残っていた吸収電荷により数百ボルトの復元電圧が発生。作業員が端子に触れた瞬間に強い電撃を受け転倒。さらに測定器の回路に高電圧が逆流して内部のIC基板が焼き切れた。
対策: 放電は「抵抗放電 ➔ 直接アース接続(5分以上保持)」の2段階を徹底し、触る前に必ず高圧検電器で無圧を確認する。
6. 絶縁診断・試験作業 自主チェックリスト
- [ ] 事前準備: 試験対象ケーブルの両端(電源側・負荷側)が完全に開放(DS/PAS等切離し)されているか?
- [ ] 遮蔽銅テープ接地: 3相の遮蔽銅テープ(アース)が確実に接地され、測定回路に正しく接続されているか?
- [ ] 試験器セット: 直流高圧発生装置の出力ダイヤルが「ゼロ位置」にあることを確認してから電源を入れたか?
- [ ] キック監視: 印加中、微少電流計の針の不規則なパルス状動き(キック現象)を目視監視したか?
- [ ] 放電手順: 試験終了後、抵抗付き放電棒で徐々に放電し、その後に直接アース線を接続して無圧確認したか?
- [ ] 残留接地: 次の作業に移る間、ケーブル導体にアース線(仮接地)を掛けっぱなしにしているか?
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