2. 引込線とは?
引込線とは、電力会社の配電設備から、需要家へ電気を流すための線です。電柱から直接住宅に向かっているものや、電柱と電柱の間をワイヤーに添わして住宅へ向かうもの(メッセンジャーケーブル、連接引込線などと呼ぶ)など、施工方法は多岐にわたります。
引込線の役割(電柱→屋内へ電力を供給するための配線)
発電所で生み出された電気は、送電線を通り変電所へ送られ33,000Vなどの特別高圧、6600Vの高圧に変圧され配電設備(目にする電柱など)に送電されます。その後、変圧器と呼ばれる機器を通り、100Vや200Vなどコンセントと同じ電圧となって引込線に流れる。というプロセスとなっています。

そのため引込線に使用される電線は、DVTやCVTなどと表記される、配電線路とは違う電線を使用しています。需要家の契約アンペア数に応じて電線の太さも変わってきます。
また、引込線には電柱側で「電線ヒューズ」というものが低圧線と引込線の間に挟まれています。この電線ヒューズは、電柱側または住宅側で電気的なトラブルが起こり、大きな異常電圧が起きた際に、他の設備が損傷しないよう瞬間的に溶断する構造になっています。
引込線に使用する電線(低圧架空引込線)
引込線に使用される電線は主に銅を使用した2本撚りの2心、3本撚りの3心の引込線(DV)を使用します。また、隣の家の敷地を横断してしまう場合や、樹木等が接触する場合、許容電流が高い電線を使用したい場合は、600Vビニル絶縁 ビニルシースケーブル(VVR)などのケーブルを使用します。
DV | ケーブル(VVR等) |
2.6mm | |
3.2mm | 8mm2 |
14mm2 | 14mm2 |
22mm2 | 22mm2 |
38mm2 | 38mm2 |
60mm2 | 60mm2 |
100mm2 | 100mm2 |
「mm2」となっている電線は一般的に「より線」と呼ばれており、糸のように細い電線がねじねじされて一本の電線になったものです。銅は導電率が高く硬度が低い金属であるため、曲げや引っ張りに耐えられる電線にする理由から、より線となっています。
引込線の太さを決める条件
電線の太さは、電気設備の技術基準という省令などをもとに決められており、その最低太さは「直径2.6mm以上の硬銅線」と決められています。そのほかは以下の理由から決められています。
省令内容抜粋
電線は、ケーブルである場合を除き、引張強さ2.30kN以上のもの又は直径2.6mm以上の硬銅線とする。ただし、
径間が15m以下の場合に限り、引張強さ1.38kN以上のもの又は直径2mm以上の硬銅線を使用することができる。
(省令第6条関連)経済産業省:電気設備の技術基準83P
- 需要家の契約アンペア数(電気の同時使用量)
- 太陽光による逆潮流の有無(電気の売買)
- 電線の自重や風の強さなどのよってかかる”引っ張り強度”
- 電線路の長さによる電圧降下(低下)
電線には一度に流れる電流の上限値をいう許容電流というものがあります。許容電流を超えた使用をすると、電線が熱を持ち、電線の保護・絶縁性能の役割を持つ被覆(ひふく)の損傷や、電線の溶断といったトラブルが起きてしまうため、様々な計算を用いて安全に電気を供給できるよう、引込線の太さが電力会社により決められています。

引込線の種類
架空引込線(電柱から直接)
架空引込線は日本において最も一般的な引込方式です。電柱から電線をひいて電気を供給するため、目視による設備確認もしやすく取り替えも容易となります。
引込線の取り替え作業を無停電で行うこともでき、1本あたりの作業時間は10分前後と考えていいでしょう。工事を依頼する場合も、他の引込線と比べると安価で済む特徴があります。
地中引込線
一般家庭での地中引込線は、繁華街に近く家の前に電柱がないような場所に施工される場合が多いです。地中に電線を通すため、外観を損なわないという特徴がありますが、費用が高い・メンテナンスが容易ではない・災害による停電の復旧に時間がかかる場合があるといったデメリットも伴います。
そのため、地中引込線は一般の住宅ではあまり用いられず、ビルや商業施設といった高圧を受電する、または地下の電気室へケーブルを通すマンションなど、規模の大きい建物が一般的です。
高圧・低圧の違い
高圧 | 低圧 | ||
必要なもの | キュービクル 電気制御室 | 屋内分電盤 | |
特徴 | 電気料金 | 電力単価が安い | 高圧に比べて高い |
設備費用 | 設備投資が必要 (管理者も含む) | 大規模な設備投資がいらない | |
基本料金 | 高い | 安い |
高圧引込線(高圧受電)と低圧引込線(低圧受電)では契約が大きく異なり、電気料金・基本料金が大きく変わります。低圧受電する場合、変圧(高圧から低圧に電圧を変える)は電力会社の設備で行うため、電気料金が高くなります。しかし、高圧受電の場合だと、自家用設備で変圧を行うため、電気料金が安くなるという仕組みです。
コンビニの駐車場や建物のそばにクリーム色をした物置のような設備を目にしたことがあるでしょうか?それらをキュービクルと呼び、高圧受電する場合にはキュービクルの設置・維持等の費用がかかってきます。

電力会社ごとに引込線の違いはあるのか?
引込線の電線種別・太さ・他物との離隔・接続方法などは、大前提として省令で定められているため、電力会社によって大きく異なることはありません。しかし、地域ごとの気候やインフラの状況によっては、特別な施工方法が採用される場合もあります。
また、町の景観のため緑や茶色に塗装された電柱を見たことはないでしょうか?このように自治体との協議によって使用する電線の種別などが変更される場合もあります。
主電力会社ごとの施工ルール比較
電力会社のそれぞれのHPを調べたところ、やはり大きな違いはありませんでした。情報が掲載されていない部分もありますが、どの電力会社も省令に準じているようです。
北海道電力 | 東北電力 | 東京電力 | 中部電力 | |
引込線種類 | 原則架空引込線 | 左に同じ | 左に同じ | 左に同じ |
取り替え方法 | 無停電作業 | 状況に応じて | 状況に応じて | 状況に応じて |
参考サイトページ | 北海道電力Facebook | 東北電力 | 東京電力 | 中部電力 |
東京電力 | ||||
九州電力 | 中国電力 | 四国電力 | 沖縄電力 | |
引込線種類 | 原則架空引込線 | 左に同じ | 左に同じ | 左に同じ |
取り替え方法 | 状況に応じて | 状況に応じて | 停電で実施 | 状況に応じて |
参考サイトページ | 九州電力 | 中国電力 | 四国電力 | 沖縄電力 |
九州電力 | 四国電力 |
引込線の他物との離隔は?
引込線と他物の離隔も省令によって定められています。

東京電力HPに掲載されている情報を見てみると、
- 車道上の地上高は5.0m以上
- 歩道上及び住宅敷地内の地上高は4.0m以上※
- その他、容易に手が触れない距離
となっています。しかし、供給先によっては引き込み接続点の関係や樹木などの理由から、特別な施工がなされる場合もあります。
実務で難しいためのポイント
引込線の施工に注意すべき点を以下にまとめました。
- 正しいダイスで圧縮する
- カバーやテープをきれいに、かつ正しく巻きつける
- グリップの巻き尻
- 電線の”より”が開かないようにする
- 張り過ぎず正しいたるみをとる
- 接続箇所の余長が他物と接触しない、離隔を確保する
- 供給先以外の民地を横断しない
- 白または青がアースとなるようにする
- 地域で定められている施工法を遵守する
施工する上で特に気をつけるべきは接続箇所です。正しいダイスとスリーブを使用しなければ、風などの細かな振動によって徐々に電線がスリーブから抜けてきて施工不良となります。また、カバーやテープは水の混入による腐食や、鳥や飛来物による短絡を防止する重要な役割があります。
また、アース線を間違って接続すると、家の中で正しく電気が使えず、短絡やショートといった電気トラブルも発生するため、アース線は十分に注意してください。


よくあるQ&A
引込線工事は自分でできますか?
電力会社のHP上の説明にもあるように、引込線は電力会社の設備区分となるため自ら施工することはできません。撤去する場合でも同じで、電力会社へ申請して撤去してもらうようにしましょう。
※軒下の引込線接続点が財産の境界線と全ての電力会社が取り決めています。
敷地内にある電線引き込みポールは誰の所有物ですか?
引き込みポールを設置する際に、需要家が引き込みポールの費用を負担していれば需要家のものとなります。公道に建っている電柱やポールのほとんどは、電力会社やNTTなどの所有物ですが、所有している敷地内であれば需要家の所有物である可能性が高いです。
また、電力会社やNTTの所有物である場合、電柱やポールに識別番号のようなものを記載・刻印などがされたものが付いている場合が多いので、それを目安に確認してみましょう。
まとめ
省令で定められた施工により、安全に電気を供給するという目的が大前提であるため、引込線の大部分は、電力会社によって大きな違いはありません。しかし、地域の気候やインフラによっては特別な施工がされている場合はあります。(雪が積もりにくい・風対策・景観維持など)
「自分の家の引込線が他の家と違う」「安全なのか心配」という方は、該当する電力会社へ問い合わせてみるものいいかもしれません。また、電気工事従事者は、施工不良などのトラブルが起きないよう十分に注意して作業していきましょう。