高圧受電設備(キュービクル)の受電点・責任分界点付近に設置され、夏季の雷サージから設備全体を死守しているのが「避雷器(LA:Lightning Arrester)」です。
しかし、年次点検や保全現場では、
- 「避雷器の絶縁抵抗測定を行ったら、0MΩ近くを指して焦った」
- 「全漏れ電流と抵抗分漏れ電流(Ir)の違いがよく分からない」
- 「避雷器が内部で劣化しているのに放置した結果、破裂して母線短絡事故を引き起こした」
といったトラブルや誤った点検手順になっていませんか?
本記事では、JEC-2374(金属酸化物避雷器)、JIS C 4502、内線規程、高圧受電設備規程などの公的規格に準拠し、ギャップレス避雷器の構造、ZnO素子の非直線抵抗特性、漏れ電流計を用いた劣化診断(Ir測定)、熱暴走防止策までをファクトベースで徹底解説します。
1. 避雷器(LA)の役割とギャップレス酸化亜鉛(ZnO)素子の構造
避雷器は、雷サージや開閉サージなどの異常高電圧が電線路から侵入した際、瞬時に大電流を大地へ逃がし(放電)、過電圧を一定値(制限電圧)以下に抑えるための保護装置です。
① ギャップレス避雷器(ZnO避雷器)の非直線抵抗特性
現代の6.6kV高圧受電設備で採用されている避雷器の100%近くは、「ギャップレス酸化亜鉛(ZnO:ジンクオキサイド)避雷器」です。
内部に直列放電ギャップを持たず、焼結されたZnO(酸化亜鉛)素子が直接接続されています。ZnO素子は、電圧に応じて抵抗値が極端に変化する「バリスタ特性(非直線抵抗特性)」を持っています。
【商用電圧(6.6kV / 対地電圧 3.8kV)印加時】
➔ 抵抗値が「極めて高い(メガオーム級)」状態。
➔ 回路にはわずかな漏れ電流(数100μA程度)しか流れない。
【雷サージ(数万ボルトの異常高電圧)侵入時】
➔ 抵抗値が「一瞬でほぼゼロ(数オーム以下)」へ激減!
➔ 雷サージ電流を大地へ高速で放電し、異常電圧を吸収。
【サージ通過後(電圧低下時)】
➔ 再び「極めて高い抵抗値」へ一瞬で復元(続流を完全に遮断)。
侵入サージ電圧
│
┌───────┴───────┐
│ ZnO素子(LA) │ ─── 異常電圧時:抵抗ほぼゼロ(サージを大地へ放電)
└───────┬───────┘ ─── 常時:高抵抗(漏れ電流のみ)
│
接地(アース D種)
2. 避雷器の設置位置と選定基準(内線規程・電技解釈)
電気設備技術基準および内線規程において、避雷器の設置は厳格に定められています。
① 設置場所のルール(原則:受電点近く)
高圧受電設備規程において、架空電線路から受電する需要家の受電点(キャブタイヤケーブルまたは高圧引き込み部)には、可能な限り受電点に近い位置に避雷器を設置することが義務付けられています(地中配線引き込み等で雷被害のリスクが極めて低い場合を除く)。
② 6.6kV系統における選定スペック
標準的な6.6kV自家用電気工作物で選定される避雷器の定格仕様は以下の通りです。
- 公称放電電流:2,500A(または 5,000A / 10,000A)※需要家規模や落雷頻度地域により選定。
- 定格電圧:8.4kV(6.6kV非接地系統の対地電圧上昇に耐える定格)。
- 放電耐量:サージエネルギーを何回受け止められるかの耐熱・放電能力。
3. 避雷器の劣化メカニズムと「抵抗分漏れ電流(Ir)」測定
ZnO避雷器は動的接点を持たないメンテナンスフリーの機器に見えますが、雷サージの通過、繰り返される過電圧、水分の浸入(気密不備)によって内部のZnO素子が徐々に熱劣化を起こします。
① 全漏れ電流(Io)の2つの成分
平常時、避雷器に商用電圧が印加されている際、接地線を流れる「全漏れ電流(Io)」は以下の2つのベクトル合成値です。
- 静電容量分漏れ電流(Ic):避雷器の対地静電容量(コンデンサ成分)によって流れる進み電流(全体の約80%〜90%を占める)。素子の劣化に関わらず常に一定。
- 抵抗分漏れ電流(Ir):ZnO素子の抵抗成分を通り抜けて流れる同相電流。素子が熱劣化・吸湿すると増大する。
【漏れ電流のベクトル関係】
静電容量分 Current (Ic)
▲
│ / 全漏れ電流 (Io)
│ /
│ / θ (位相差)
└────┴──────────► 抵抗分 Current (Ir) ➔ ★これが増えると熱暴走!
② なぜ通常のクランプメーター(Io測定)では不十分なのか?
一般のACクランプメーターで測れるのは「全漏れ電流(Io)」です。
Ioの大部分は影響のないIc(静電容量分)で占められているため、ZnO素子が劣化してIrが2倍〜3倍に跳ね上がっても、Io全体の数値には数%しか変化が現れません。
そのため、避雷器の精密診断では「電圧信号と同期させて Ir(抵抗分漏れ電流)だけを抽出して測定できる避雷器漏れ電流計」を使用する必要があります。
4. 漏れ電流測定による劣化判定基準
各種保安協会およびメーカー(日本ガイシ・音羽電機製作所・明電舎等)の標準ガイドラインに基づく、6.6kV避雷器(相あたり)の判定基準は以下の通りです。
避雷器の漏れ電流判定基準表
| 判定区分 | 抵抗分漏れ電流(Ir) | 全漏れ電流(Io)目安 | 現場の状況・対応 |
| 良(健全) | 100μA(0.1mA)以下 | 約 0.5mA 〜 1.0mA | 健全。継続使用可能。 |
| 要注意 | 100μA〜200μA | 約 1.0mA 〜 1.5mA | 素子の熱劣化・吸湿の兆候。観測強化。 |
| 危険(異常) | 200μA(0.2mA)超 | 2.0mA 超(または三相不平衡) | 即時交換(熱暴走によるアーク短絡事故のリスク) |
熱暴走(Thermal Runaway)の恐怖
Ir(抵抗分漏れ電流)が 200μAを超えて放置されると、漏れ電流によるジュールの熱が発生します。ZnO素子は温度が上がると抵抗値が下がる(さらに漏れ電流が増える)という悪循環に陥ります。
最終的に「熱暴走」を起こして素子が溶融・短絡し、受電設備の爆発・母線短絡事故を引き起こします。
5. 現場での点検手順と安全管理
年次点検や日常巡視において避雷器を点検する際の現場実務ルールです。
現場での安全・作業手順チェックリスト
- 外観点検:
- 碍子(ガイシ)表面に亀裂・ヒビ・トラッキング跡がないか。
- 避雷器に付随する「脱離装置(ディスコネクタ)」が動作(変色・脱落)していないか確認する。
- メガー(絶縁抵抗)測定時の注意:
- 避雷器が接続されたまま1000Vメガーをあてると、定格によっては素子が導通して「0MΩ(絶縁不良)」に見える場合や、過電圧で素子を痛める場合がある。
- 絶縁抵抗測定を行う際は、原則として避雷器を回路から切り離すか、避雷器専用の測定モード(または500V以下)で行う。
- 接地線の確認:
- 避雷器の接地線(A種またはD種接地)が確実に接続されているか、接地抵抗値が規定値以下か確認する。
💡接地工事について詳しく知りたい方はこちら
→【完全ガイド】接地工事(A・B・C・D種)の施工基準・抵抗値・測定方法まとめ
【重要注記】現場での最終判定について
※本記事に記載の定格・判定閾値(Ir = 100μA 等)は、JEC-2374および一般的なメーカー仕様に基づく標準値です。現場での点検にあたっては、導入機器の銘板記載スペック、メーカーの取扱説明書、および管轄の電気主任技術者・保安協会の判定基準を必ず優先してください。
📖 【高圧図面・操作】単線結線図(スケルトン)の読み方とインターロック回路はこちら
➔ 【内線規程・JIS C 0617】高圧受電設備の単線結線図(スケルトン)の読み方|DS・VCBの誤操作防止とインターロック回路の仕組み
まとめ:抵抗分漏れ電流(Ir)の早期発見が熱暴走を防ぐ
避雷器(LA)は、キュービクルを雷被害から守る無言の防波堤です。
- ギャップレス構造:ZnO素子の非直線抵抗特性により、通常時は絶縁、サージ時のみ超低抵抗化する。
- 劣化のシグナル:静電容量分(Ic)ではなく、「抵抗分漏れ電流(Ir)」の増大が劣化の唯一のサイン。
- 判定の閾値:Irが 100μAを超えたら注意、200μAを超えたら即時交換を行って熱暴走事故を防ぐ。
正しく測定・診断を行い、設備全体の安全を確保しましょう!
📖 【高圧試験】高圧ケーブルの直流耐圧試験(DC22kV)と漏れ電流測定はこちら
➔ 【電技解釈・JIS C 3605】高圧ケーブルの直流耐圧試験(DC22kV)と漏れ電流測定|試験手順・放電処理と水トリー劣化診断