電柱に取り付けられている、箱からカニのようにリードが伸びた装置は開閉器と呼びます。開閉器は、緊急時や工事の際など様々なシーンで活躍する重要な機器です。
開閉器とは?
開閉器とは、高圧線におけるスイッチです。高圧に用いられる開閉器を高圧開閉器と総称し、様々な種類とそれぞれの得意分野があり、適材適所に設置されています。
主に高圧で電気の供給を受ける受電先と、電力会社の設備の責任分界点として設けられると同時に、波及事故の防止や自家電気設備のメンテナンスを円滑に進めるためなどの役割を持っています。
開閉器の重要性
開閉器は自家用設備と電力会社の間だけでなく、自家設備の区分点、配電線路の各箇所など、様々なところに設置されています。開閉器があることで、
- 事故や機器の故障に伴う波及事故の防止
- 特定箇所以外を復旧し、事故点を停電状態にする
- 瞬時に切り離すことで、他設備の故障を防ぐ
- 設備メンテナンス時に簡単に停電状態にできる
配電線路においては、停電時や時間帯による電流の上昇に対応するため、回路の区分点に開閉器が設置されています。停電時には、遠隔または手動で開閉器を操作することで、停電となる原因があった区分以外には送電できるようになっているのです。
開閉器の隠れた役割「責任分界点」
高圧で供給された自家用設備と電力会社設備には、「責任分界点」という電気トラブルの損害に対しての境界線があります。そのため、高圧供給を受ける側は開閉器を設ける義務はありませんが、波及事故を防止するため、開閉器を設置されています。
例えば、自家用設備のケーブルが絶縁破壊を起こし地絡電流が発生したとします。
変電所では大きな地絡電流の発生を受け、設備の故障や歩行者の感電を防止するため、保護継電気装置にて開閉器が開放されます。1つの配電線路が停電してしまうと、停電時に発生したであろう電気代や、その停電に対応した人件費などの賠償が必要になってしまう可能性があるのです。
- 自家設備の故障による地絡または短絡電流が発生
- 変電所にて異常を検知・遮断
- 変電所が受け持つフィーダ(配電線路)が停電
- 停電時の電気料金や対応した人件費が請求される可能性
引込開閉器PAS・UGS
自家用設備に設置される開閉器は、
- PAS(高圧気中開閉器)
- UGS(地下引込用区別開閉器)
の二つです。電柱に取り付けられたものがPASとなります。また、これらに付随して設置されるSOG(保護継電気装置)とVCT(計器用変圧変流器)を紹介します。
PAS(高圧気中開閉器)
PAS(Pole Air Switch)の頭文字をとってパスと呼ぶこの開閉器は、架空引込方式に用いられており、開閉操作は基本手動です。メンテナンス時の停電や、電気トラブル時の波及事故を防止するために操作されます。
架空引込方式であるため、需要家敷地内に引込柱を建て、地上から4.5m以上に設置されます。
種類が豊富で、無方向性・方向性、VT内蔵・LA内蔵・VT/LA内蔵。さらに、それらに200A、300A、400A、600Aと容量別に製造されています。
UGS(地下引込用区別開閉器)
UGS(地下引込用区別開閉器)とは、地中引込専用の開閉器です。PASとの大きな違いは取り付け位置が挙げられます。PASは引込柱という自家用設備の電柱に取り付けられるのに対して、UGSは借室や屋外キュービット(キュービクル)内に設置されます。
操作方法や種類などはPASと大きく違う点はありません。
PAS・UGSとセットでついてくる機器SOG:VCT
SOGとは?
PASやUGSは波及事故を防止するという名目で設置されますが、開閉器単体では手動のスイッチと変わりません。そのため、地絡電流を検知して、瞬時に開閉器を開放する「SOG:保護継電気装置」という機器が必要かつ重要になります。
SOGは、旧型だと高圧引込柱についているバケツのような機器、比較的新しいものだと箱型のものがあります。この機器がPASらと接続されていることで、自家設備または電力会社設備から発生した地絡電流を検知して、設備の故障や電気災害を防止してくれます。

VCTとは?
VCTは高圧受電のメーターを動かすために必要な装置です。内部に電力量計や小型の変圧器などが内蔵してあり、メーターと直接接続される構造となっています。
また、PASの種類にあるVT内蔵は、この機器が内蔵されているものなので、引込柱に設置する機器が減り、すっきりとした見た目にすることができます。
LA(避雷器)
PASの種類の中にLA内蔵という種類がありましたが、LAとはアレスタ、避雷器と呼ばれるものです。
避雷器は字の如く雷による災害を防ぐもので、雷サージと呼ばれる異常電圧を内部のヒューズを通して大地に流し、設備を保護する役割があります。屋外に設置される架空引込方式であれば、雷を受ける可能性は十分にあり、電力会社の配電線路においてもLA内蔵型の開閉器が設置されています。
配電線路(電力会社)の電柱に設置されている開閉器
配電線路には、手動で操作する区分開閉器のほか、遠隔操作で開閉できる自動開閉器などが設置されています。電柱についている逆さまのバケツのようなものは子局と呼ばれ、遠隔操作や特定の条件下に自動で開閉器を操作させる、重要な装置です。
フィーダの合流地点や、配電線路に一定間隔で取り付けられており、停電時や負荷電流の上昇、電気工事のためなどに操作される場合があります。
停電時には開閉器を分岐点として、段階的に送電する再閉路というシステムを用いることで、停電が起きる原因となった区分のみを停電させ、それ以外は電気が使えるようにして被害を最小限に抑える役割を担っています。
メンテナンスと点検
開閉器の寿命は10〜15年、開閉操作200回が一般的です。しかし、海沿いなど塩害を受けるところや工場地帯などでは、ブッシングと呼ばれる絶縁部分に塩や鉄粉が付着したり、リードの劣化が早まったりするため、定期的に清掃などのメンテナンスを行わなければ、その寿命は早まる可能性があります。
機器の種類やメーカーによっても様々なため、一概には言えません。
開閉器の取り付け体験談「ブッシングがこわい」
ここは運営者の体験談です。開閉器は鉄の箱であるため、いいことではありませんが多少ぶつかっても壊れるようなことはありません。しかし、絶縁体であるブッシングは、碍子と呼ばれる焼き物で作られているため、コツンと工具がぶつかっただけでも破損してしまうほど繊細です。(同僚がブッシングを破損させ修理に100万円かかったことも)
そのため、取り付ける際にはブッシングが割れないよう養生していきます。高所作業車についているウィンチで開閉器を吊り上げていくのですが、一度吊り上げると手が届かなくなるため、揺れても他物にぶつからない位置で吊り上げていく必要があります。しかし中には、建築中で足場や業者の機械が混在する現場もあり、その時には非常に神経を使います。
また、PASのリード内に水が入らないよう、接続点の処理にも十分注意しなければなりません。ここには自己融着テープと呼ばれるテープを使用することが一般的です。高価である分、他の機器と比べると一際慎重にならなければならないものの一つと言えます。
