変圧器(トランス)を電路に投入(課電)した瞬間、「バシッ!」という大きな音とともに、定格電流の数倍〜十数倍にも及ぶ巨大な電流が一時的に流れ込むことがあります。
これが「励磁突入電流(インラッシュ電流)」です。
この現象を正しく理解していないと、受電時の不要動作(ブレーカーや過電流継電器の誤遮断)や、設備への機械的ストレスを引き起こす原因になります。
本記事では、励磁突入電流が発生する物理メカニズムから、減衰までの挙動、そして実務・試験で必須となる5つの具体的対策まで分かりやすく解説します!
1. 変圧器の励磁突入電流(インラッシュ電流)とは?
励磁突入電流とは、変圧器を電源に接続した直後の数サイクル(約0.1秒〜数秒間)にわたって流れる過渡的な大電流のことです。
通常運用時の励磁電流は定格電流の数%程度(非常に小さい)ですが、投入のタイミングによっては定格電流の6〜20倍(小型トランスや極数によってはさらに高倍率)もの大電流が流れます。
| 項目 | 通常時の励磁電流 | 励磁突入電流(インラッシュ電流) |
| 電流の大きさ | 定格電流の1〜5%程度 | 定格電流の6〜20倍程度 |
| 波形の形 | ほぼきれいな正弦波(歪み小) | 著しく歪んだ波形(第2高調波を多く含む) |
| 継続時間 | 連続(常時) | 投入直後から数サイクル〜数秒で減衰 |
| 発生原因 | 鉄心を磁化するための基本電流 | 電源投入時の電圧位相 + 残留磁気 |
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2. なぜ発生するのか?(物理メカニズム)
励磁突入電流が発生する根本的な原因は、「電源投入時の電圧位相」と「鉄心に残っている残留磁気」の2つが重なることで、鉄心の磁束が限界を超えて過大になり「磁気飽和」を起こすからです。
① 電圧の位相(投入タイミング)の影響
変圧器の磁束φは、電源電圧vを積分した関係にあります(位相が90度遅れる)。
- 電圧が最大値(位相90°または270°)で投入された場合〜磁束はゼロからスムーズに始まり、過渡現象は発生せず定常状態に移行します。
- 電圧がゼロ(位相0°または180°)で投入された場合〜交流理論の過渡現象により、磁束は定常状態の最大値φmの「2倍(2φm)」まで跳ね上がろうとします。
② 残留磁気(残留磁束)の影響
前回変圧器を遮断・停止した際、鉄心内に残った磁束を「残留磁気(φr)」と呼びます。
もし「電圧ゼロ投入」と「残留磁気φr」が同じ向きに重なると、鉄心内の磁束は理論上2φm+φrにまで達し、鉄心の許容量(飽和磁束密度)を大きくオーバーします。
③ 磁気飽和による励磁インピーダンスの急減
磁束が鉄心の限界(飽和点)を超えると、鉄心はそれ以上磁束を通せなくなり、電気的には「ただの空気」と同じ状態になります。
すると変圧器の励磁インピーダンス(電流の流れにくさ)が激減し、1次側に巨大な電流が「ドッと流れる」ことになります。これが励磁突入電流の正体です。

3. 励磁突入電流が及ぼす現場への影響・リスク
- 過電流継電器(OCR)や地絡継電器の誤動作
- 設備事故(短絡や地絡)ではないのに、巨大な突入電流を事故電流と誤認してメインの遮断器がトリップ(落電)してしまいます。
- 系統の瞬時電圧低下(ボルトドロップ / ボルテージディップ)
- 一時的な大電流によって系統側に電圧降下を引き起こし、同一系統内にある精密機器の停止や照明のチラツキ(フリッカ)を誘発します。
- 変圧器本体への機械的ストレス・打撃音
- 強大な過渡的電磁力によって巻線が物理的に揺さぶられ、「バシッ」「ブーン」という激しい打撃音が発生し、絶縁劣化を早めます。
- 変圧器の安全対策としては、混触事故を防ぐ「B種接地」の理解も不可欠です。計算方法や遮断時間による条件分岐はこちらで詳しく解説しています。 [関連記事]
【B種接地抵抗値の計算方法】150/I系の公式と条件分岐(300・600)を徹底解説!
4. 現場・試験で必須の「5つの抑制対策」
現場や設計において、励磁突入電流による問題を防ぐために以下の対策が講じられています。
対策1:過電流継電器の「第2高調波抑制回路(ロック)」
- 原理〜励磁突入電流の波形には、「第2高調波(100Hz/120Hz成分)」が非常に多く含まれるという固有の特徴があります。
- 方法〜継電器(OCR)に第2高調波検出回路を組み込み、「第2高調波が含まれている場合は事故電流ではなく突入電流と判定してトリップ命令をロック(阻止)する」仕組みです。
対策2:位相制御投入(抵抗投入)
- 原理〜電圧位相がゼロの瞬間に投入することで磁束が2倍になる現象を防ぎます。
- 方法
- 位相制御遮断器〜電圧が最大(90°または270°)になるタイミングを狙ってピンポイントで投入します。
- 限流抵抗投入〜投入初期に一時的に抵抗(限流抵抗)を直列に挟み、電流ピークを抑えてから本投入へ切り替えます。
対策3:時限(タイムラグ)の調整
- 励磁突入電流は数サイクル〜数秒(通常は1秒以内)で急速に減衰します。
- 継電器の動作時間にわずかなタイムラグ(反時性・定時性特性)を持たせることで、突入電流が収まるのを待って誤遮断を防ぎます。
対策4:変圧器の低磁束密度設計
- 変圧器の設計段階で、あらかじめ鉄心の動作磁束密度を低めに設定しておきます。
- 磁束が重なっても飽和領域に入りにくくなるため、突入電流の発生そのものを小さく抑えられます。
対策5:残留磁気の消磁(減磁処理)
- 定期点検時や大型トランスの直流抵抗測定試験後、鉄心に残った磁気を専用の消磁装置で減磁させてから系統に復帰させます。

計測や保護に使われるCT(変流器)は、扱いを誤ると異常高電圧が発生して大変危険です。2次側開放の危険性と正しい作業手順はこちら。 [関連記事] 【なぜ危険?】CT(変流器)の2次側開放で高電圧が発生する理由と正しい対策を徹底解説!
電源投入時の突入電流対策とあわせて押さえておきたいのが、高圧受電設備(キュービクル)の「力率改善」と「高調波対策」です。直列リアクトル(SR)の選定やコンデンサ容量の計算方法はこちら。
5. 一問一答!試験・現場で問われる重要ポイント
第一種電気工事士や電験三種などの試験では、以下のポイントが頻出します。
| 問われるポイント | 解答のキーワード・正解 |
| 突入電流に含まれる主な高調波成分は? | 第2高調波(※第3高調波との引っ掛けに注意) |
| いつ投入すると最も突入電流が大きくなるか? | 電源電圧が「ゼロ」の瞬間(位相0°または180°) |
| 継電器の誤動作を防ぐ最も代表的な方式は? | 第2高調波抑制方式(波形判別ロック) |
| 突入電流の波形の特徴は? | 正負非対称で、片側に大きく偏った歪み波形 |
まとめ:突入電流は「波形の特徴(第2高調波)」で交わす!
変圧器の励磁突入電流は、単に「大きな電流が流れる」ということだけでなく、「なぜ流れるのか(電圧ゼロ投入+残留磁気による磁気飽和)」 と 「どう防ぐのか(第2高調波抑制・位相制御)」 をセットで理解することが重要です。
- 発生原因〜電圧ゼロ投入 + 残留磁気→鉄心が磁気飽和
- 波形の特徴〜第2高調波(2f成分)を多く含む片寄り波形
- 主な対策〜第2高調波抑制ロック、位相制御投入、時限調整
この原理と対策の流れを押さえておけば、現場でのトラブルシューティングや資格試験の問題でも迷わず確実に対処できるようになります!