第一種電気工事士や電験三種の試験、また現場での配線設計において、必ず登場するのが「電圧降下の簡易計算式」です。
- 単相2線式: e = 35.6 × L × I / (1000 × S)
- 三相3線式: e = 30.8 × L × I / (1000 × S)
- 単相3線式: e = 17.8 × L × I / (1000 × S)
丸暗記して計算している方も多いと思いますが、「なぜ”35.6”や”17.8”という中途半端な数字が出てくるのか?」「なぜ式によって係数が変わるのか?」 という根拠(理由)まで理解している人は意外と多くありません。
本記事では、簡易計算式に使われている定数の物理的根拠(銅線の導電率)から、各種配線方式での公式の導出手順、そして簡易式が使える前提条件・限界まで分かりやすく解説します!
1. 電圧降下の簡易計算式一覧
まずは、現場や試験で使われる簡易計算式を一覧で整理しておきましょう。
| 配線方式 | 簡易計算式 | 係数の意味 |
| 単相2線式(1φ2W) | e = 35.6 × L × I / (1000 × S) | 17.8 × 2本分 |
| 三相3線式(3φ3W) | e = 30.8 × L × I / (1000 × S) | 17.8 × √3(1.732) |
| 単相3線式(1φ3W) | e = 17.8 × L × I / (1000 × S) | 17.8 × 1本分(線間電圧降下) |
- e : 電圧降下 [V]
- L : 電線の長さ [m]
- I : 電流 [A]
- S : 電線の断面積(太さ) [mm2]
2. 魔法の数字「17.8」の正体とは?(物理的根拠)
公式の中で最も重要となる基準数字が 「17.8」 です。この数字の正体は、「電気配線に使われる標準的な銅(硬銅線)の抵抗率」 です。
銅線の抵抗率から電線抵抗を求める
電線の抵抗 R [Ω] は、「抵抗率 ρ × 長さ L / 断面積 S」で求められます。
標準的な硬銅線の導電率は97%とされており、温度20℃における抵抗率 ρ は、およそ 1/55 = 0.0178 [Ω・mm2/m] です。
電線の長さを L [m]、断面積を S [mm2] とすると、1本あたりの電線抵抗 R は次のように表せます。
R = 0.0178 × (L / S) [Ω]
これを整数ベースの見やすい形に変形すると、以下になります。
R = 17.8 × L / (1000 × S) [Ω]
つまり、「17.8 / 1000」とは、長さ1m・断面積1mm2の銅線が持つ電気抵抗(0.0178Ω)そのものなのです!
3. 各公式の導出:なぜ 35.6 や 30.8 になるのか?
「電線1本あたりの抵抗 R = 17.8 × L / (1000 × S)」が理解できれば、あとは配線方式ごとに電流が通るルート(電線の本数や位相差)を掛け合わせるだけで各公式が導出できます。
① 単相2線式(1φ2W):なぜ「35.6」なのか?
単相2線式では、電源から負荷へ向かう「行き」と、戻ってくる「帰り」の合計2本の電線を通って電流が流れます。
- 電線1本あたりの電圧降下 = I × R
- 往復2本分の電圧降下 e = 2 × I × R
- R に 17.8 × L / (1000 × S) を代入する
- e = 2 × I × (17.8 × L / (1000 × S))
- e = 35.6 × L × I / (1000 × S)
このように、17.8 を 2倍(往復分)した結果が「35.6」になります。
② 三相3線式(3φ3W):なぜ「30.8」なのか?
三相3線式における線間電圧降下は、単相の往復(2倍)ではなく、各相の位相差(120度)の関係から 「√3倍(約1.732倍)」 になります。
- 三相3線式の線間電圧降下 e = √3 × I × R
- R に 17.8 × L / (1000 × S) を代入する
- e = 1.732 × I × (17.8 × L / (1000 × S))
- 1.732 × 17.8 = 30.8296 ≒ 30.8
- e = 30.8 × L × I / (1000 × S)
このように、17.8 に √3(1.732)を掛けた結果が「30.8」 になります。
③ 単相3線式(1φ3W):なぜ「17.8」なのか?
単相3線式で、上下の負荷が平衡している(バランスが取れている)場合、中性線には電流が流れません。
そのため、中性線と電圧線間の100V回路における電圧降下は、電圧線1本分(1倍)だけを考慮すればよくなります。
- 電線1本分の電圧降下 e = I × R
- e = 17.8 × L × I / (1000 × S)
したがって、17.8 をそのまま(1倍)使ったものが「17.8」 となります。
4. 簡易計算式の「前提条件」と「限界」
現場や試験で使い勝手の良い簡易計算式ですが、万能ではありません。実務で使う際には、以下の2つの省略・仮定が行われていることを知っておく必要があります。
① リアクタンス(X)を無視している(純抵抗とみなす)
本来の厳密な電圧降下の公式は、電線の抵抗 R だけでなく、リアクタンス(インダクタンス成分)X や負荷の力率 cosθ を考慮して計算します。
- 厳密式: e = K × I × (R × cosθ + X × sinθ)
しかし、ビルや工場内の一般的な低圧配線(細い電線や短距離配線)では、リアクタンス X の影響が抵抗 R に比べて非常に小さいため、「X ≒ 0」「力率 cosθ ≒ 1.0」と仮定して簡略化されたのが簡易計算式です。
② 電線温度を20℃(硬銅線)と仮定している
前述の通り「17.8」は20℃における硬銅線の抵抗率に基づいています。
CVケーブルなどの一般電線は、許容電流近くまで流すと導体温度が60℃〜75℃まで上昇します。温度が上がると金属の抵抗値は高くなるため、実際の高負荷時の電圧降下は簡易式の計算結果よりもわずかに大きくなる(悪化する) ことに注意が必要です。
💡 実務でのワンポイント
電線が非常に太い場合(100mm2以上)や配線長が100mを超えるような長距離配線では、リアクタンスや温度変化の影響を無視できなくなるため、電線メーカーの技術資料にある「インピーダンス表(R・X明記)」を用いた厳密計算を行います。
5. 計算問題に挑戦!現場・試験での実践活用
実際に試験で問われる計算問題を解いて知識を定着させましょう。
【問題】
電圧 200V、三相3線式の回路において、長さを 50m、負荷電流を 20A とした。断面積 5.5mm2 の銅線を使用した場合の電圧降下 [V] を簡易計算式を用いて求めよ。
【解答・解説】
- 三相3線式の簡易計算式を選択する:e = 30.8 × L × I / (1000 × S)
- 与えられた数値を代入する:
- L = 50 [m]
- I = 20 [A]
- S = 5.5 [mm2]
答: 5.6V(200Vに対して約2.8%の電圧降下であり、内線規程の許容範囲内に収まっていることが確認できます)

まとめ:根拠を知れば「数字の暗記」から解放される!
電圧降下の簡易計算式は、単なる暗記用の公式ではなく、「銅の抵抗率 17.8」をベースに電線の本数や位相差を掛け合わせた合理的かつ物理的な式です。
- 17.8 の正体: 銅線 1本分の基本抵抗係数(1/55 ≒ 0.0178)
- 35.6(単相2線): 往復2本分(17.8 × 2)
- 30.8(三相3線): 位相差による√3倍(17.8 × 1.732)
- 17.8(単相3線): 線間1本分(17.8 × 1)
この導出プロセスを一度理解しておけば、万が一試験中に「35.6 だったか 30.8 だったか…」と迷っても、17.8 さえ覚えていればその場で公式を簡単に作ることができます!
💡 あわせて読みたい配線設計・電気理論の関連記事
配線における「電流」や「過電圧」、「回路バランス」に関する重要テーマもあわせてチェックしておきましょう!
正しい根拠を押さえて、資格試験の計算問題や現場の安全な配線設計に活かしていきましょう!